2012.4.05 カテゴリー|その他の治療について
50代の男性、10年くらい前から両手の痺れがあり、5年ほど前に某総合病院で首の手術を受けました。手術後、両手の痺れは若干改善しましたが、1年ほどで元に戻りました。
主治医はMRIの画像を見ながら、「神経の圧迫はきれいに取り除かれている。後は自然と回復するのを待つしかない。」と説明し、ビタミン剤や抗うつ薬を処方しました。しかし、薬を飲んでも症状は悪化するばかりで、患者さんは途方に暮れていました。
昨年、知人に勧められて当院を受診しました。診察したところ、両手の親指から薬指にしびれがあり、理学所見からも典型的な手根管症候群でした。
手根管症候群とは、手を使いすぎることにより、手首のところで腱が炎症を起こし腫れることで、同じ場所にある正中神経が圧迫され、しびれや麻痺が出る病気です。
患者さんの手首に腱の炎症を鎮めるステロイドの注射を行ったところ、翌日には10年間悩んでいた痺れがほとんど消えました。
「手の痺れは首が原因」と思い込んでいる人が、(医師も含めて)たくさんいるようですが、首が原因で手がしびれることはほとんどありません。
頸椎が変形して首の神経(脊髄)を圧迫する病気を頸椎症性脊髄症といいます。この病気では多くの場合、手の痺れだけではなく、指がうまく動かせない(巧緻障害)、脚が突っ張ってうまく歩けない(痙性歩行)が伴います。腕や脚の深部反射がかならず亢進します。手術をして、脊髄に対する圧迫を取り除かなければ、絶対に治りません。
しかし、実際には頸椎症性脊髄症の患者さんはめったにいません。多くの患者さんが、巧緻障害や深部反射亢進などの症状がないにもかかわらず、MRIなどで脊髄への圧迫が認められるだけで、頸椎症性脊髄症と誤診されているのではないかと思われます。
手の痺れの原因の多くは、手根管症候群や肘部管症候群などの末梢神経障害です。首や肩の筋筋膜性疼痛症候群が原因の場合も多いです。その他、糖尿病性神経障害で痺れることもあります。しかし、首(頸椎)の変形で手がしびれることはめったにありません。頸椎が原因かどうかは反射が亢進しているかどうかですぐにわかります。
とにかく、「手の痺れの原因は首からくることはほとんどない。」ということだけ覚えておいてください。