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画像所見・神経所見に異常がないからと言って痛みがないとは言えない

2014.2.07 カテゴリー|トリガーポイント注射

40代の女性

 交通事故に遭い、首と背中、右肩から右手にかけての痛みとしびれがあり、当院に通院していました。半年間治療をしましたが、強い痛みが残ったため、後遺障害の申請をしました。しかし、「画像所見・神経所見に異常がない」という理由で、後遺症として認められませんでした。患者さんはその判断に不服だったため、弁護士をたてて保険会社を相手に裁判を起こしました。その際、私に依頼があり意見書を書きましたが、なぜか取りに来てくれなかったので、もったいないからここに載せます。


 平成〇年〇月〇日に発行されたMさんに対する後遺障害の結果について反論させていただきます。要するに、画像所見や神経所見などの客観的証拠がないため、後遺障害には当たらないと結論されたようですが、随分と古い医学常識を基にした判断で、正直驚きました。

 まず、画像所見や神経所見が客観的証拠といえるのかどうかについて検証してみます。神経学所見で、真に客観的所見といえるのは深部腱反射だけです。運動麻痺や、知覚異常に関しては、所見をとる際に患者本人に嘘の演技をされてしまっては、それを見抜く方法がないため、全くあてになりません。運動麻痺や知覚異常の有無は客観的証拠とはいえません。

  画像所見についてですが、画像所見に異常がないのに強い痛みを訴えている患者さんがたくさんいることは、臨床医なら誰でも知っていることです。たとえば、腰痛の患者さんの85%は画像所見に異常がないことが分かっています。これらの画像所見に異常がない患者さんは、痛くないのに痛いと嘘をついているのでしょうか?日本人の9割は一生のうち一度は腰痛になるといわれています。1億2000万人×9割×85%=9180万人もの人が嘘をついているというのでしょうか?そんなはずありません。肩こりの患者さんも五十肩の患者さんもテニス肘の患者さんもほとんどの場合が画像所見に異常を認めません。画像所見が痛みの客観的証拠になる患者さんは、痛みを訴える患者さんのごく一部でしかありません。それでも、画像所見に異常がないから後遺障害に当たらないといえるのでしょうか?これらの画像所見に異常がない患者さんの痛みの原因は、骨や軟骨の異常ではなく筋肉に出来たトリガーポイントです。トリガーポイントとは筋線維の一部が痙攣を起こしてシコリとなっている部分で、強い圧痛を認めます。スポーツ外傷や交通事故などで、急激に強い力が加わったときや、繰り返し無理な負担がかかったときなどに出来ます。このトリガーポイントが原因で痛みが出る病気が、筋筋膜性疼痛症候群です。トリガーポイントが出来た筋肉に力を入れると痛みが出るため、無意識に力を入れないようになり、筋力低下を起こします。またトリガーポイントが出来ると、そこに関連した部位に痛みやしびれが出ます。たとえば、棘下筋にトリガーポイントが出来ると、肩から腕から手にかけて痺れが出ます。

  Mさんの場合、当て逃げした車を追いかけて、サイドミラーをつかんだときに急発進されたため、首と前腕と肩の筋肉が急激に牽引され、肩甲挙筋、棘下筋、橈側手根伸筋などにトリガーポイントが出来ました。現在残っている症状、頚部痛、背部痛、右上肢の痛み、右上肢の脱力感(握力低下)は、これらのトリガーポイントが原因と考えれば、全て説明がつきます。また、触診すると、筋肉の中に圧痛を伴うシコリ(トリガーポイント)を触れることが出来ます。これは、神経所見などと比べるとはるかに他覚的で客観的な所見です。繰り返しになりますが、運動麻痺や知覚鈍麻はいくらでも嘘をつくことが出来ますが、故意にトリガーポイントをつくることは不可能だからです。Mさんの場合、事故によってトリガーポイントが出来てしまい、それが現在も続く痛みなどの症状の原因であることは明白です。画像所見や神経所見に異常がないという理由で、後遺障害に当たらないという判断は、「痛みには、画像所見や神経所見で客観的に評価できる異常を伴う」という古い間違った常識を元にした誤った判断です。

  医学は日々進歩しています。特に痛みの分野の研究は急激に進んでいます。古い常識は新しい常識にどんどん置き換わっています。交通事故の後遺障害を決める現場で、今だに古い常識にとらわれた判断が行われていることに対して、強い不安と懸念を感じています。

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