2013.3.12 カテゴリー|湿潤療法
整形外科医になりたてで、大学病院に勤めていた時、一人の女の子を担当することになりました。
その子は先天的な病気で、背骨が後ろ側に大きく曲がっていて(脊椎後弯)、その先端部分の皮膚の血流が悪くなって、そこに皮膚潰瘍ができていました。その皮膚潰瘍を治すことを目的に、大学病院に紹介入院してきました。
当初は、広背筋皮弁で潰瘍部を覆う手術をする方針でしたが、潰瘍部の培養でMRSAが検出されてから、大きく予定が狂ってしまいました。
当時、MRSAは抗生剤がきかない細菌として、必要以上に恐れられていました。そこで、MRSAを消すために、毎日、イソジンで創をグリグリ消毒していました。その結果、創はさらに深く大きくなっていきました。
いくら、消毒してもよくならないので、皮膚潰瘍のそもそもの原因である脊椎後弯を治すことになり、他大学から脊椎後弯手術の権威を呼び寄せ、脊椎を切って矯正し金属で固定する手術を行いました。
しかし、術後、創が開いてしまいそこからまたMRSAが検出されました。MRSA感染による創離解と診断され、MRSAを無くすために、金属を抜去する手術をしなくてはいけなくなりました。
結果、創は塞がりましたが、脊椎が不安定になってしまったため、座ることが出来なくなり、それまで車いすに座って移動していた女の子は、特注の車いすにうつぶせに寝て移動する形で、退院していきました。
入院時より生活における不自由さは明らか増してしまいました。
今の僕なら、湿潤療法を知っているので、最初の段階で皮膚潰瘍を治せたかもしれません。
いや、今の僕なら、最初から無理に皮膚潰瘍を治す必要はないと説明すると思います。
毎日お風呂に入って、その後に、皮膚潰瘍にプラスモイストを貼ってもらうだけでいいのですから、患者さんにも家族にもたいした負担はかかりません。
下手な手術をして、座れなくなってしまうことを考えればずっとましなはずです。
もちろん当時としては、正しい治療としていると信じて治療をしていました。
医学は日々進歩しているので、新しい治療法が登場して、今まで正しいと思われていた治療法が、否定されることはざらにあります。
だから、医師は日々勉強し続け、躊躇なく新しい治療を取り入れていかなければいけない思っています。