2015.10.27 カテゴリー|トリガーポイント注射
60代の女性
7年前から両膝痛があり、あちこちの医療機関を受診していました。1年前に某病院で人工関節手術をしないと治らない言われ、手術は怖いので娘のすすめで当院を受診しました。
初診時、両膝痛のため、杖をついてもよたよたとしか歩けず、左膝はごっつい装具で固定されていました。
両大腿内側広筋にトリガーポイントを認めたので、トリガーポイント注射を週1回行うようにしました。また、左膝の筋萎縮が顕著であったため、加圧トレーニングも始めました。
3ヶ月くらいで右膝の痛みはほとんどなくなりました。加圧トレーニングの効果で左膝の筋萎縮も改善し、装具をつけなくても杖なしで歩けるようになりました。
端から見たらだいぶ良くなったように見えるのですが、本人は診察にくるたびに「左膝が痛い。左膝の痛みはいつになっても治らない。」と訴えてきます。
慢性疼痛で、頭の中が痛みのことでいっぱいになっている患者さんの典型例です。
痛みが少し良くなったときに、「おかげさまで少しずつ良くなってきています。」と感謝できる人はその後だんだん良くなっていきます。心が前向きになることで痛みの悪循環から抜け出せるからです。
逆に、痛みが少し良くなっているのに「まだ痛みが残っている」と不満を言う人は、いつまでたっても治りません。心が後ろ向きで自ら痛みの悪循環に陥っているからです。
この患者さんには、次回受診するときは嘘でもいいから「おかげさまで少しずつ良くなってきています。」と言うように伝えました。前向きな発言をすることでだんだん心も前向きになって痛みの悪循環から抜け出すことが出来るからです。
治療する側としても、毎回不満を言いつのる患者さんより、感謝してくれる患者さんの方が一生懸命治療しようというやる気が出ます。
慢性疼痛で治療中の患者さんは、残った痛みのことではなく、良くなった痛みを探して「おかげさまで少しずつ良くなっています。」と口に出すようにしましょう。そうすることで痛みが早く楽になります
2015.10.26 カテゴリー|湿潤療法
40代の男性
仕事中に木材を加工する機械に左親指を巻き込まれ、MP関節の近くで皮膚の一部と屈筋腱を残して不全切断しました。救急病院に搬送されてそこで骨接合術と皮膚の縫合を受けました。その後、徐々に皮膚が壊死してしまい、受傷1ヶ月後にMP関節レベルでの切断を提案されたため当院を受診しました。
当院初診時の画像です。
MP関節より先が壊死してミイラ化います。
「治療してみないとわからないけど、湿潤療法ならなるべく長く親指を残すことが出来るでしょう。」と説明して湿潤療法を開始しました。
まず、壊死してミイラ化した皮膚を溶かすためにワセリンをべったり塗ってプラスモイストで覆いました。
湿潤療法1週間後の画像です。
ミイラ化した皮膚が溶けてきたら、IP関節レベルまで皮下組織が生きていることがわかりました。引き続き同じ処置を続けました。
湿潤療法開始6週間後の画像です。
壊死した皮膚がだいぶ柔らかくなって浸出液も増えたのでプラスモイストで覆うだけにしました。
湿潤療法開始10週間後の画像です。
壊死した皮膚はすべて溶けて、末節骨と屈筋腱がむき出しになっています。このまま自宅でプラスモイスト交換を続けてもらいました。
湿潤療法開始後3ヶ月後に屈筋腱が自然と切れてIP関節で指がぽろりと落ちました。(この時点での画像を撮り忘れました)
その後も湿潤療法を続けました。
湿潤療法開始10ヶ月後治療終了となりました
前医で切断術を受けるよりは約3センチ長く残すことが出来ました。
3センチ長く残せたおかげで、コップや茶碗を持つことが可能になりました。
2015.10.19 カテゴリー|その他の治療について
私はひどい便秘の人には桃核承気湯を出しています。
ほかの便秘薬(プルゼニド、ラキソベロンなど)を飲んでも全然でなかったウンコが桃核承気湯を飲むとすぐに出ます。
先日も、便秘薬をいくら飲んでも3日1回しかウンコがでないといっていた患者さんに桃核承気湯を処方したら、毎日出るようになったと喜ばれました。
1日3回食前に飲む薬ですが、3回飲むとかなりひどい便秘の人でも下痢気味になってしまうので、自分で調整して1日に1回から2回飲んでもらうようにしています。
2015.10.06 カテゴリー|その他
初めて来た患者さんの中には、「腰も膝も肩も全部痛い」と何カ所も診察してほしいと要求してくる患者さんがいますが、私には無理です。だからいつも「一度には1カ所しか診察できません。一番痛いところはどこですか?」と聞きます。
私は一つの問題をじっくり考えるのは得意ですが、いくつもの問題を同時に考えるのが苦手です。というか出来ません。学校の試験問題やクロスワードパズルなどを1問1問解いていくことは得意ですが、将棋のように一度にたくさんのパターンを考えなきゃいけないゲームは苦手です。ゴルフのように止まっているボールを打つことにだけ集中すればいいスポーツはそこそこ出来ますが、野球のように動いているボールだけじゃなくランナーのことも一緒に見なければいけないスポーツは全く全然出来ません。
腰と膝と肩を一度に診察しろと言われても、頭の中がパンクしてしまって、うまくできません。無理なものは無理なのです。だから、1回目は1番痛いところを診察して、2回目に2番目にいたいところを診察するようにしています。
どうしても、1回ですべての症状の診察してほしい人は、申し訳ありませんが当院以外の医療機関を受診してください。私には無理です。
2015.10.06 カテゴリー|骨折・捻挫の治療
胸や背中をぶつけたりひねったりして肋骨に痛みが出て当院を受診する患者さんがたくさんいます。皆さん一様に肋骨が折れていないかどうか心配しますが、肋骨は折れていても折れていなくても治療法も治る期間もほとんど同じです。
患者さんが来たらまず、痛みがある部位を聞いて、押していたいところを探して、そこにクリップを貼ってマーキングをしてから肋骨のレントゲンを撮ります。肋骨は片方だけで12本もありまた細長くて湾曲している骨なので、マーキングをしないと折れているところを探すのが大変です。
レントゲンを診て、骨折の有無を確認しますが、3本以内の転位のない骨折だったら折れていても折れていなくても同じ治療をします。
痛みが強ければ肋骨バンドを巻きます。(肋骨バンドはシグマックス社のリブバンドが丈夫でゴムの弾力もあり肋骨全体を固定できるので効果的です。A社の肋骨バンドは、ゴムの弾力が弱すぎて使い物になりません。)肋骨バンドは痛いところに巻くのではなく、なるべく上の方、男性なら脇の下のすぐ下。女性なら、女性用のリブバンドを乳房のすぐ下に巻きます。きつく巻いた方が痛みが楽になります。
肋骨バンドを巻いても痛みが強い場合は、圧痛部にトリガーポイント注射をします。トリガーポイント注射が劇的に効くことがよくあります。
それから痛み止めの飲み薬と湿布を1週間分処方して、次のように説明します。
「肋骨をぶつけると、折れていても折れてなくても2週間くらいは痛みます。その間は痛みが出るような動作はなるべく避けてください。注意してほしいのは、肋骨が痛いと痛みが気になるものだから、ついつい痛いところを指で押して探してみたくなりますが、これをやると骨がずれたり、折れてない骨にヒビが入ったりして余計痛くなりますから絶対にやらないように気をつけてください。1週間たってもまだ痛みがあるときはまた来てください。」
痛みが続いている場合のみ再診時にレントゲンを撮り、骨折が転位していないか、血胸や気胸が発生していないかどうか確認します。痛みが取れている場合は、あまり意味がないのでレントゲンは撮りません。
息苦しさや呼吸苦がある場合は胸部レントゲンも撮り、血胸(骨折部からの出血が肺の中に貯まる状態)や気胸(肺に穴が開いて肺の外に空気が漏れる状態)の有無を確認します。軽度の気胸や血胸は、自然と治るので数日おきにレントゲンを撮って経過を見ますが、ひどい気胸や血胸は外科的処置が必要なので、呼吸器外科のある大きな病院に紹介します。
レントゲンでわからない程度の転位のない骨折だったら、折れていても折れていなくても治療法も治る期間もほとんど一緒なので、CTをとってまで肋骨骨折を探すことはあまり意味がなく医療費の無駄だと思います。