2013.3.19 カテゴリー|湿潤療法
前回のブログで、軽いやけどの応急処置について書きましたが、そのあと、湿潤療法の第一人者である練馬光が丘病院の夏井睦先生に相談して、少し改訂いたしました。
「患者のにぎりこぶしより大きい水疱がある」場合は、すぐに救急病院を受診しましょう。
「発赤だけ」の場合、ワセリンがあれば、ワセリンを塗ってからラップで覆うのがベストですが、無ければそのままラップで覆うだけで痛みは改善します。
軽いやけどの応急処置(最新版)はこちら↓
2013.3.19 カテゴリー|湿潤療法
茨城こども救急相談室のアドバイザーをしている看護師さんから相談がありました。
茨城こども救急相談室
http://www.pref.ibaraki.jp/life/hoken/jifuku/jifuku_043.html
「夜間に子供が軽いやけどをして、電話で相談してくる方がたくさんいるが、応急処置をどのように指導したらよいかわからない。ネットで調べても重症の症例の紹介ばかりで、軽傷の症例の応急処置について書かれていない。」
そんなわけで、軽いやけどの時に自宅でできる応急処置のフローチャートを作ってみました。参考になるでしょうか?
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2013.3.18 カテゴリー|湿潤療法
9歳の女の子
自転車で転倒して、顔をすりむきました。お母さんが湿潤療法について知っていたので、市販のハイドロコロイド(キズパワーパッド)を貼って、翌日当院を受診しました。
上が受診時の写真です。そのままハイドロコロイドを使用した湿潤療法を続けました。下唇の下はハイドロコロイドがはがれてしまうので、ワセリンを厚く塗ることで対応しました。
1週間後にはきれいに治りました。
消毒やガーゼで治療した場合、もっと時間がかかって、疵が残ってしまった可能性もあります。
大きくなったら、お母さんが湿潤療法を知っていたことに感謝をしなければいけません。
2013.3.12 カテゴリー|湿潤療法
整形外科医になりたてで、大学病院に勤めていた時、一人の女の子を担当することになりました。
その子は先天的な病気で、背骨が後ろ側に大きく曲がっていて(脊椎後弯)、その先端部分の皮膚の血流が悪くなって、そこに皮膚潰瘍ができていました。その皮膚潰瘍を治すことを目的に、大学病院に紹介入院してきました。
当初は、広背筋皮弁で潰瘍部を覆う手術をする方針でしたが、潰瘍部の培養でMRSAが検出されてから、大きく予定が狂ってしまいました。
当時、MRSAは抗生剤がきかない細菌として、必要以上に恐れられていました。そこで、MRSAを消すために、毎日、イソジンで創をグリグリ消毒していました。その結果、創はさらに深く大きくなっていきました。
いくら、消毒してもよくならないので、皮膚潰瘍のそもそもの原因である脊椎後弯を治すことになり、他大学から脊椎後弯手術の権威を呼び寄せ、脊椎を切って矯正し金属で固定する手術を行いました。
しかし、術後、創が開いてしまいそこからまたMRSAが検出されました。MRSA感染による創離解と診断され、MRSAを無くすために、金属を抜去する手術をしなくてはいけなくなりました。
結果、創は塞がりましたが、脊椎が不安定になってしまったため、座ることが出来なくなり、それまで車いすに座って移動していた女の子は、特注の車いすにうつぶせに寝て移動する形で、退院していきました。
入院時より生活における不自由さは明らか増してしまいました。
今の僕なら、湿潤療法を知っているので、最初の段階で皮膚潰瘍を治せたかもしれません。
いや、今の僕なら、最初から無理に皮膚潰瘍を治す必要はないと説明すると思います。
毎日お風呂に入って、その後に、皮膚潰瘍にプラスモイストを貼ってもらうだけでいいのですから、患者さんにも家族にもたいした負担はかかりません。
下手な手術をして、座れなくなってしまうことを考えればずっとましなはずです。
もちろん当時としては、正しい治療としていると信じて治療をしていました。
医学は日々進歩しているので、新しい治療法が登場して、今まで正しいと思われていた治療法が、否定されることはざらにあります。
だから、医師は日々勉強し続け、躊躇なく新しい治療を取り入れていかなければいけない思っています。
2013.2.26 カテゴリー|湿潤療法
2月19日に東京新聞に、ヤケドに対する湿潤療法についての記事が掲載されました。
「広がるやけどの湿潤療法、痛みや後遺症、大幅減」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/health/CK2013021902000186.html
以下転載
広がるやけど湿潤療法 痛みや後遺症 大幅に減少
2013年2月19日
外来のやけどの治療現場で、患部を保湿して皮膚を再生させる湿潤療法が広がっている。軟こうとガーゼによる治療と比べ、痛みや後遺症を大幅に減らせるためだ。従来の治療では皮膚移植に至る症例も、「湿潤療法で治せる場合が多い」と指摘する医師が増えてきている。 (林勝)
愛知県内の会社員(28)の長女(3つ)は昨秋、夕食中に鍋の熱いスープを誤って左手にかけた。救急病院に行き、患部に軟こうを塗ってガーゼで覆う処置を受けたが、その後も痛みで泣き続けた。母親(28)は、インターネットでやけどの湿潤療法を知り、長女に受けさせたいと思った。
翌日、やけど治療の実績がある病院の形成外科を受診。ガーゼを患部から引き剥がす時に長女は再び大泣きした。「やけどが深いから皮膚移植が必要かも」と医師。「湿潤療法でお願いします」と訴えたが、返ってきたのは「うちではできません」だった。病院を変えることを決めた。
名古屋市昭和区の杉浦医院(内科・小児科・在宅医療)で湿潤療法が受けられることを知り、早速受診。森亮太院長は「これならきれいに治る」と、患部に付いた軟こうや水疱(すいほう)の皮をできるだけ除去。体に無害のワセリンと被覆材で患部を保護した。すると長女は、ぴたりと泣きやんだ。
自宅では毎日、患部を水道水で洗い、ワセリンを塗った新しい被覆材と交換。森さんの指示で、痛みや腫れを伴う感染症に注意しながら続け、皮膚は徐々に再生。やけどから二十四日目には、ほぼ回復した。「湿潤療法を受けさせて良かった」と母親。一方「なぜ、大きな病院でできないのか」と不満をあらわにした。
杉浦医院にはこの患者のほか、湿潤療法を求めて別の病院の形成外科や皮膚科の治療をやめて来る人が増えている。両科の治療に共通するのは軟こうとガーゼ。「この処置が皮膚の再生を妨げている」と森さんは言う。
◇
湿潤療法の普及に努める練馬光が丘病院傷の治療センター(東京)の夏井睦医師は「軟こうの成分と、ガーゼによる乾燥が問題」と指摘する。
いずれも感染を防ぐのが主な目的だが、軟こうに含まれる殺菌剤や界面活性剤は、皮膚や傷口の細胞を破壊する。ガーゼは空気を通すため、患部を乾燥させて、さらに治癒を遅らせる。激しい痛みは乾燥で起こり、患者に大きなダメージを与えると、夏井さんは考えている。
こうした治療が行われるのは、日本熱傷学会が標準治療として認めているためだ。夏井さんは「結果的に傷を深くした上で、別の場所の皮膚を剥がして移植をしている。患者は、傷痕や触覚が鈍る後遺症にずっと苦しめられる」と話す。
一方の湿潤療法のポイントは、患部とくっつかない無害の素材をかぶせ、滲出(しんしゅつ)液をとどめて乾燥を防ぐこと。毎日水洗いして、被覆材を交換すれば、感染症はほとんど防げるという。夏井さんは「治療結果から、患者の生活の質のレベルが違うはずだ」と強調。背中全面に負った重いやけども、湿潤療法で治した実績がある。
日本熱傷学会に所属する中部地方のある医師も、皮膚移植に至る治療に疑問を感じている。「もし自分の娘がやけどしたら、皮膚移植は受けさせない」と漏らす。
同学会理事の仲沢弘明・日本大医学部形成外科主任教授は「インフォームドコンセント(十分な説明と同意)なしに、安易に皮膚移植が行われているのであれば大問題。ガイドラインについても検討する必要がある」とコメントした。
夏井さんは、ホームページ「新しい創傷治療」で、湿潤療法が受けられる全国の医療機関を紹介している。
当院もヤケドに対して湿潤療法を行っています。