2016.12.15 カテゴリー|トリガーポイント注射
40代の男性
15年くらい前から腰痛があり、某整形外科でヘルニアと診断されました。それ以来、年に1~2回寝込むほど痛くなることがあったそうです。
昨年10月に右殿部から右足首にかけての痛みが出ました。某総合病院を受診し「腰部脊柱管狭窄症だけど手術するほどじゃない」と診断され、リリカとトラムセットを処方されました。リハビリも2ヶ月間行いましたが、痛みがよけいひどくなったため中止しました。トリガーポイント注射やブロック注射などの注射による治療は一度も勧められなかったそうです。
痛みのため昨年11月から仕事を休んでいました。じっとしていても痛み、そのため夜も眠れないほどですが、歩いたり動いたりしては痛みはあまりでないということでした。
痛みのため憔悴していて表情もとても暗かったです。
今年の9月中旬にネットで調べて当院を受診しました。触診の結果以下の部位にトリガーポイントを認めました。また、ずっと安静にしていたため左ふくらはぎの筋肉は著しく萎縮していました。
トリガーポイント注射を行い、効果が出てないリリカを中止して代わりに、夜眠れるようにリボトリールを処方しました。
「なるべく早く仕事に復帰できるように、週3回トリガーポイント注射を行いましょう。」と声をかけました。
最初のころはトリガーポイント注射もリボトリールもあまり効きませんでした。
初診から2週間後、トラムセットを中止して、サインバルタに変更し投与量を徐々に増やしていったら、表情も明るくなり、痛みも改善していきました。
11月に入ってからは仕事復帰を目指して、加圧トレーニングもして貰いました。加圧トレーニングの効果で2週間くらいで筋萎縮が改善しました。
そしてついに、12月から1年以上休んだ仕事に復帰できました。
サインバルタはSNRIといわれるタイプの抗うつ薬ですが、慢性疼痛に対して効果が認められることから、今年の3月から慢性腰痛患者さんに処方できるようになりました。私の印象では、比較的若い人の慢性疼痛によく効く気がします。
2016.12.12 カテゴリー|トリガーポイント注射
先日受診した40代の男性
これまでも何度もぎっくり腰をしていて、整形外科を受診してレントゲンを撮り、「腰の骨の一番下の骨と骨の間の椎間板が狭くなっている」と説明され、それが痛みの原因だと診断されました。
先日、またぎっくり腰になり、当院を受診しました。その際に、上記の話を聞いて、以下のように説明しました。
「40過ぎればほとんどの人で椎間板一つや二つは狭くなっています。これは老化現象であって、痛みとは関係ありません。腰痛の原因が椎間板が狭くなっているせいだという説明は、頭痛の原因が頭の白髪のせいだと言っていることと同じで、全くナンセンスな説明です。」
「ぎっくり腰の原因は、椎間板や骨は関係なく、腰やおしりの筋肉の痙攣です。痙攣している筋肉に注射をすれば早く治ります。」
腰と殿部に4カ所トリガーポイント注射をして、マックスベルトをきちんと巻いたら、「だいぶ楽になった。」ようです。
椎間板が狭くなっていることが腰痛の原因なら、そこを外科的に治さなければ痛みが取れないはずです。しかし、ほとんどの腰痛は投薬や注射などの保存的治療や、場合によってはほっといても自然と治ります。
また、椎間板が狭くなっていることが腰痛の原因なら、40歳を過ぎた人のほとんど全員が、常に腰痛に悩んでいなければいけませんが、そんなことはありません。
椎間板が狭くなっているには老化現象で痛みと関係ないからね。
2016.11.07 カテゴリー|トリガーポイント注射
「痛み止めはなるべく使わないほうがいいので、我慢できなくなってから使ったほうがいい」
「痛み止めは痛みを止めているだけなので、治療にはならない」
と思い込んでいる方が今でもたくさんいるようです。しかしこれらが完全に誤った迷信であることが、近年の医学研究でわかってきました。
痛みを我慢すればするほど、痛みはひどくなります。痛みとは体に異常があることを脳に知らせるためのサイレンです。痛みを我慢するということは、このサイレンを無視していることと同じことです。サイレンを無視された体は、交感神経を介してさらに痛みをひどくすることで、もっと大きなサイレンを脳に送ります。こうして我慢すれば我慢するほど痛みがひどくなる悪循環に陥ります。
痛みの情報は皮膚や筋肉にあるセンサーで感知されて電気信号として脳に送られますが、ある値より小さい痛みは痛みとして認識されません。この値を閾値(しきいち)といいます。痛みは発生後に時間とともに強くなっていきます。そして閾値を超えたときに初めて痛みとして認識されます。この時点で痛み止めの治療をすれば、痛みはすぐに閾値より下になるので、速やかに痛みが消えます。しかし、限界まで我慢した時点で痛みを治療した場合は、痛みは閾値より下にならないので痛みは消えません。そのため痛みの悪循環が止まらず痛みはさらにひどくなります。だから我慢した後では痛み止めが効かないのです。
痛みの原因は2種類に分けられます。ひとつは、切り傷や火傷、骨折や捻挫、あるいは癌や化膿など、体の組織の損傷に伴う痛みです。もうひとつは腰痛や肩こり、40肩、坐骨神経痛など体の損傷を伴わない痛みです。体の損傷を伴わない痛みの原因は筋肉の部分的な痙攣(トリガーポイント)です。
ストレスにより心の緊張状態が続くと、交感神経の働きが過剰になり、筋肉が痙攣して痛みが発生します。痛みが発生すると痛みに対する不安がストレスになり、さらに交感神経の働きが過剰になり筋肉をもっと痙攣させ痛みをひどくさせます。これが痛みの悪循環です。
なるべく早い時期に、痛み止めの治療を徹底的に行い、一時的にでも痛みを消してしまうことでこの悪循環が止まり痛みから解放することが出来ます。治療としては、痛み止めの薬や筋肉の痙攣をとめる薬の内服、筋肉の痙攣を止める注射(トリガーポイント注射)や関節内注射などがあげられます。特にトリガーポイント注射は速効性があり、有効性が高く、健康保険で週3回まで行うことが出来るのでお勧めです。これらの治療でよくならない場合、交感神経の働きを抑える目的で、抗うつ薬や抗てんかん薬を使用するときもあります。
高血圧のお薬(降圧薬)は血圧を下げているだけで、高血圧の原因を治しているわけではありません。糖尿病のお薬も血糖値を下げているだけで、糖尿病の原因を治しているわけではありません。だから基本的に死ぬまで飲まなければいけません。
でも痛み止めの薬は、痛みの原因である筋肉の部分的な痙攣(トリガーポイント)を治すことが出来ます。だから痛みがなくなったら飲まなくてもいいのです。
少し難しい話になってしまいましたが、要するに「痛みは我慢せず、すぐに薬や注射で治療したほうが早く治る」ということです。
2016.10.13 カテゴリー|トリガーポイント注射
70代の男性
7年前から、全身の痛みと歩行障害などが出現し、頸椎の手術を1回、腰椎の手術を2回受けましたが、症状は改善しませんでした。
手術をしたところとは別の総合病院で検査を受け、手術には問題ないから近くの医療機関で治療を受けるようにと、当院に紹介されました。
初診時、全身の痛みと歩行障害を認めました。
「元に戻すことは出来ませんが、注射と薬で痛みをコントロールしましょう。」
と説明しました。
全身に注射するわけにはいかないので、一番痛がっていた後頸部にトリガーポイント注射をしました。
(ちなみにこの患者さん、あちこちの病院を渡り歩きましたが、注射を受けたことは一度もなかったそうです。)
5日後に再診した際には
「おかげさまで、首の痛みはすっかりとれた。」
と喜んでいました。
首の痛みが取れて姿勢が良くなったためか、腰痛などの全身の痛みや歩行障害も改善しました。
まあでも、みんながみんな、トリガーポイント注射がこんなに効くわけじゃないけどね。
危険性も副作用もほとんどない注射だから試してみる価値はあると思います。
2016.10.03 カテゴリー|トリガーポイント注射
腰の骨の間に椎間板という軟骨があります。椎間板はわかりやすくいうとクッションです。そのクッションの中身(髄核)がはみ出てきて、神経を圧迫して腰痛や下肢痛を起こす病気が椎間板ヘルニアです。そこでそのはみ出た髄核を手術で取り除く治療などが行われてきました。しかし、この診断と治療にはいくつもの矛盾点があります。
髄核が神経を圧迫しているのが原因ならば、手術をして髄核を取り除かない限り痛みが取れないはずです。ところが実際は椎間板ヘルニア患者のほとんどの人が手術をしなくても痛みがよくなります。逆に手術をして髄核をきれいに取り除いても痛みが取れない人もいます。
大規模な臨床試験でも手術した人としなかった人で半年後に痛みが残っている確率は同じでした。
またMRIの普及により椎間板ヘルニアがあるのに痛みがない人がたくさんいることがわかりました。別の臨床試験では、腰痛や下肢痛がある人と、何も症状がない人のMRIを比べたところ、腰椎椎間板ヘルニアがある確率は同じであることがわかりました。つまり、腰痛や下肢痛の有無と椎間板ヘルニアの有無には、相関関係が全くないということです。
神経生理学的にも矛盾があります。例えば指を包丁で切ってしまったとき、指の皮膚にある痛みを感じるセンサーが電気信号を発します。その電気信号が神経を伝わり脳に送られ、脳は指を切って痛みが発生したことを認識します。神経とはセンサーの電気信号を脳に伝える電線なのです。神経は電線であって、センサーではないので髄核が神経を圧迫しても痛みの電気信号は発生しません。
つまり、椎間板ヘルニアがあって神経を圧迫しても痛みは発生しないはずなのです。
では、腰痛や下肢痛の原因は何でしょうか?それはずばり、トリガーポイントです。転倒や事故、繰り返し同じ動作をする、などで筋肉に負担をかけると筋肉の一部が痙攣してトリガーポイントが出来ます。
トリガーポイントが出来ると筋肉内にある痛みのセンサーが電気信号を発して、脳に痛みの情報を伝えます。脳が痛みを感じると不安になるため、交感神経が興奮して筋肉の痙攣をよりひどくします。こうして痛みがどんどんひどくなっているのです。これを「痛みの悪循環」といいます。
こんな時に医師から「椎間板ヘルニアによる痛みです。手術したほうがいいです。」などと言われたらどうでしょう?余計に不安になり、痛みも余計にひどくなってしまうでしょう。
逆に「この痛みは筋肉の痙攣が原因なので、治療すれば数日でよくなります。」といわれたら、それだけで安心して、痛みが改善します。
腰痛は椎間板ヘルニアなどの構造的な異常から原因ではなく、筋肉の機能的な異常から発生しているのです。
筋肉の痙攣による痛みに対して、最も有効なのがトリガーポイント注射です。トリガーポイント注射は注射で痙攣している筋肉に直接局所麻酔薬を打つ方法です。この注射をすると筋肉の痙攣が鎮まり痛みが軽減します。局所麻酔を筋肉内に打つだけなので非常に安全ですし、何度でも行えます。
慢性的な痛みで普通の痛み止めが効かない場合は、抗うつ薬や抗てんかん薬を飲むことで、脳のストレスや不安を軽減し自律神経の異常を改善させ痛みを楽に出来ます。
椎間板ヘルニアは手術でもよくなりますが、実はこれは手術時に行った全身麻酔で筋肉の痙攣が消失したことでよくなるのではないかと考えられます。
また加圧トレーニングには自律神経の調子を整える効果、ストレスを軽減する効果、筋肉の血流を改善する効果があるのでトリガーポイントによる痛みにも非常に有効です。