2014.2.10 カテゴリー|骨折・捻挫の治療
60代の女性
歩いていて左足首をひねりました。強い痛みと、著しい腫れが出現しましたが、指や足首が動くので折れていないと自己判断して、安静のみで様子をみていました。10日くらいたってからやっと歩けるようになりましたが、その後いつまでたっても痛みがとれないので受傷から5週間後に当院を受診しました。
受診時のレントゲンです。
外くるぶしの少し上が折れています。しかしすでに仮骨(骨をくっつける新しい骨)が出来ていて、骨はくっついています。
骨がくっついているのに、なぜ痛みがとれないのでしょう。それは痛みをずっと我慢していたからです。痛みを我慢していると神経が異常に興奮してしまい、痛みの原因がなくなっても、痛みだけが残ってしまう状態になります。このような痛みを慢性痛と言います。慢性痛は治すのが非常に難しい痛みです。この方の場合、受傷してすぐにシーネで外固定すれば、すみやかに痛みが軽減し、3週間くらいシーネを巻いた後は、痛みなく歩くことができたと思います。痛みが出たらなるべく早く適切な治療をして痛みを取り除いてやることで痛みが慢性痛に変化することを予防しなければいけません。
痛みは我慢してはいけません。我慢させてもいけません。
2014.2.07 カテゴリー|トリガーポイント注射
40代の女性
交通事故に遭い、首と背中、右肩から右手にかけての痛みとしびれがあり、当院に通院していました。半年間治療をしましたが、強い痛みが残ったため、後遺障害の申請をしました。しかし、「画像所見・神経所見に異常がない」という理由で、後遺症として認められませんでした。患者さんはその判断に不服だったため、弁護士をたてて保険会社を相手に裁判を起こしました。その際、私に依頼があり意見書を書きましたが、なぜか取りに来てくれなかったので、もったいないからここに載せます。
平成〇年〇月〇日に発行されたMさんに対する後遺障害の結果について反論させていただきます。要するに、画像所見や神経所見などの客観的証拠がないため、後遺障害には当たらないと結論されたようですが、随分と古い医学常識を基にした判断で、正直驚きました。
まず、画像所見や神経所見が客観的証拠といえるのかどうかについて検証してみます。神経学所見で、真に客観的所見といえるのは深部腱反射だけです。運動麻痺や、知覚異常に関しては、所見をとる際に患者本人に嘘の演技をされてしまっては、それを見抜く方法がないため、全くあてになりません。運動麻痺や知覚異常の有無は客観的証拠とはいえません。
画像所見についてですが、画像所見に異常がないのに強い痛みを訴えている患者さんがたくさんいることは、臨床医なら誰でも知っていることです。たとえば、腰痛の患者さんの85%は画像所見に異常がないことが分かっています。これらの画像所見に異常がない患者さんは、痛くないのに痛いと嘘をついているのでしょうか?日本人の9割は一生のうち一度は腰痛になるといわれています。1億2000万人×9割×85%=9180万人もの人が嘘をついているというのでしょうか?そんなはずありません。肩こりの患者さんも五十肩の患者さんもテニス肘の患者さんもほとんどの場合が画像所見に異常を認めません。画像所見が痛みの客観的証拠になる患者さんは、痛みを訴える患者さんのごく一部でしかありません。それでも、画像所見に異常がないから後遺障害に当たらないといえるのでしょうか?これらの画像所見に異常がない患者さんの痛みの原因は、骨や軟骨の異常ではなく筋肉に出来たトリガーポイントです。トリガーポイントとは筋線維の一部が痙攣を起こしてシコリとなっている部分で、強い圧痛を認めます。スポーツ外傷や交通事故などで、急激に強い力が加わったときや、繰り返し無理な負担がかかったときなどに出来ます。このトリガーポイントが原因で痛みが出る病気が、筋筋膜性疼痛症候群です。トリガーポイントが出来た筋肉に力を入れると痛みが出るため、無意識に力を入れないようになり、筋力低下を起こします。またトリガーポイントが出来ると、そこに関連した部位に痛みやしびれが出ます。たとえば、棘下筋にトリガーポイントが出来ると、肩から腕から手にかけて痺れが出ます。
Mさんの場合、当て逃げした車を追いかけて、サイドミラーをつかんだときに急発進されたため、首と前腕と肩の筋肉が急激に牽引され、肩甲挙筋、棘下筋、橈側手根伸筋などにトリガーポイントが出来ました。現在残っている症状、頚部痛、背部痛、右上肢の痛み、右上肢の脱力感(握力低下)は、これらのトリガーポイントが原因と考えれば、全て説明がつきます。また、触診すると、筋肉の中に圧痛を伴うシコリ(トリガーポイント)を触れることが出来ます。これは、神経所見などと比べるとはるかに他覚的で客観的な所見です。繰り返しになりますが、運動麻痺や知覚鈍麻はいくらでも嘘をつくことが出来ますが、故意にトリガーポイントをつくることは不可能だからです。Mさんの場合、事故によってトリガーポイントが出来てしまい、それが現在も続く痛みなどの症状の原因であることは明白です。画像所見や神経所見に異常がないという理由で、後遺障害に当たらないという判断は、「痛みには、画像所見や神経所見で客観的に評価できる異常を伴う」という古い間違った常識を元にした誤った判断です。
医学は日々進歩しています。特に痛みの分野の研究は急激に進んでいます。古い常識は新しい常識にどんどん置き換わっています。交通事故の後遺障害を決める現場で、今だに古い常識にとらわれた判断が行われていることに対して、強い不安と懸念を感じています。
2013.9.10 カテゴリー|その他の治療について
「昨日、交通事故にあった。どこも痛くないけど、保険会社から『後から痛くなると困るので、念のため病院で診察を受けてくれ』と言われた。」
と言って、整形外科を受診する患者さんがたくさんいます。
以前にもブログに書きましたが、現時点でなにも症状がなければ、診察のしようがありません。
もし骨が折れていたり、関節が外れていたりしていれば、事故直後から痛いはずです。
後から痛くなるのは、筋肉痛です。
しかし、現時点でどこも痛くない人の筋肉痛が出るかどうかを予測する方法はありません。
「後から痛くなると困るので、念のため病院で診察を受けてくれ」と患者に説明する損保会社の社員は、後から出る痛みを予測する検査なり診察法なりを知っているのでしょうか?
もし知っていればぜひ教えてもらいたいものです。
知っているわけないよね。
そんな方法があるわけねぇもん。
どうせ痛みの治療についてろくに勉強もしていないで、責任逃れのために適当なアドバイスをしているだけでしょ。
損保会社の社員てホント〇〇しかいなのかな?
関連ブログ
交通事故にあってもどこも痛くなければどこも悪くないから
2013.9.02 カテゴリー|医療に関する迷信
痛みにはプラセボ効果が効きやすいと言われています。
プラセボ効果とは、まったく有効成分が入っていないニセの薬(プラセボ)を「痛みによく効く薬です。」と説明して、飲ませると本当に痛みがとれてしまうことを言います。
「この薬はよく効く」という思い込みによって、痛みそのものが楽になってしまうのです。
痛みとは、心理的状況で強くも弱くもなります。
例えば、サッカーのゴン中山選手は、試合中に骨折していたのに、試合が終わるまで痛みに気が付きませんでした。
試合にものすごく集中していたので、痛みを感じなかったのです。
逆に、たいしたことない痛みでも、一日中痛みのことばかり考えていたら、どんどん痛みが悪化していきます。
「この薬を飲めばよくなる」という安心感が、心理的状況を改善し痛みを楽にするのです。
前回のブログに書いたような「痛み止めは、痛みを抑えるだけで、痛みの原因がなくなるわけではありません」なんてことを言って、痛み止めを出したら、プラセボ効果が効かなくなってしまいます。なので、そういう意味でもこのような説明はダメです。
プラセボ効果は、飲み薬だけじゃなく、注射や手術でも発揮されます。
腰痛の患者さんに対し手術をしたふりだけして、実際は皮膚を切開して縫っただけでも、7割の人の腰痛が楽になったという米国の報告もあります。
「この先生はテレビにも出ている有名な先生だから、手術してもらえばきっと良くなる」と信じていれば、たとえ手術自体が意味のないものであっても痛みは楽になるのです。
当院にくる患者さんでも、知人から「にしぼり整形外科で注射してもらえばすぐに良くなる」と聞かされて来院した患者さんは、他の患者さんに比べて、注射が効く確率が明らかに高いです。
これもプラセボ効果です。
「この先生に治療してもらえばよくなる」と信じることで、治療の効果は格段にアップします。
まさに「信じる者は救われる」なのです。
関連ブログ
プラセボ効果とは
https://nishibori-seikei.com/blog/2013/06/post-279.html
痛み止めは痛みを抑えるだけじゃないからね
2013.8.30 カテゴリー|医療に関する迷信
「痛み止めは、痛みを抑えるだけで、痛みの原因がなくなるわけではありません」
と説明して、痛み止めを処方する整形外科医が未だにいるようです。
痛みの生理学について、何も勉強してないこと丸出しです。
患者さんの痛みをとることが、整形外科の仕事なのに・・・・・
痛みには痛みの悪循環という現象があります。
強い痛みを我慢していると、自律神経が狂い、患部の血流が悪くなり、痛みがますますひどくなる。
痛みがストレスになり、ストレスが自律神経を狂わせ、患部の血流が悪くなり、痛みがますますひどくなる。
痛みの悪循環に陥ると、痛みの原因そのもの(打撲や捻挫や骨折など)が治っても痛みが続きます。
痛み止めを飲むことで、痛みの悪循環が止まり、痛みそのものが治ります。(重度の慢性疼痛の場合は、それだけでは治らないこともありますが・・・)
実際の臨床でも、痛み止めを飲んだだけで痛みが消えてしまい、その後痛み止めを飲まなくても痛みが再発しない患者さんはたくさんいます。
痛み止めは、単に痛みを抑えているだけではなく、痛みそのものを治すのです。
関連ブログ
痛みの悪循環
https://nishibori-seikei.com/blog/2012/12/post-149.html